ニュースの概要
ブラックサンダーで知られる有楽製菓が、ミルク味を前面に出した新ブランドを86円で売り出し、1000万本規模の販売に達したとダイヤモンド・オンラインが伝えた。看板のチョコ菓子とは別の軸として、誰にでも伝わるミルクという味を選び、価格も低価格の定番より少し上に置いた点が特徴である。原材料の値上がりが続き、安さだけでは利益が残りにくい菓子市場で、納得して買ってもらえる価格をどう決めるか。本稿では見出しで示された事実を出発点に、この価格と味の選び方がなぜ成り立つのかを、菓子ビジネスの視点から読み解く。
引用元: そりゃ1000万本が売れるわ…ブラックサンダーの有楽製菓があえて「ミルクの新ブランド」を86円で売り出したワケ(ダイヤモンド・オンライン)
分析・見解
86円は安売りではなく納得できる上限を狙った価格
菓子の値段には、100円という大きな心理的な壁がある。86円なら、100円玉1枚でおつりが出る。レジ横で「ついで」に手に取る人は、100円を超えると一度立ち止まりやすい。その手前に価格を置けば、衝動買いの流れを止めずに済む。
ただし、ブラックサンダーなど低価格の定番と並べれば、一本あたりの値段は高めである。この「少し上」がねらいどころだろう。乳製品、カカオ、砂糖、包装資材の値上がりが続く中、安い商品を売れば売るほど利益が薄くなる状況は多くの菓子メーカーに共通する。1本あたりの満足度を上げて価格を引き上げ、粗利(=売値から原価を引いた利益)を確保する。数を売る力と利益を残す力を、価格帯の違う二つの商品で分担させているとみられる。
看板商品と味がぶつからないミルクという選択
ブラックサンダーの印象は、濃いココア味とザクザクした食感である。新ブランドをミルクに振れば、同じ客層でも「今日は気分を変えたい」という別の場面で選ばれやすい。自社商品同士で客を奪い合う共食い(=自社の別商品に客が流れて全体が伸びない状態)を避けやすいのも利点だ。
ミルク味は年齢や性別を問わず好まれ、説明もいらない。店頭で数秒しか見てもらえない菓子にとって、味が一目で伝わることは大きな武器になる。さらにブランドを分けたことで、ブラックサンダーの硬派で遊び心のある印象を壊さずに、やさしい印象を別に育てられる。
1000万本を支えたのは味よりも売り場の力
新商品の多くは、棚に置いてもらう段階で落ちる。コンビニやドラッグストアの棚は限られ、実績のない商品は数週間で入れ替わる。有楽製菓にはブラックサンダーで築いた取引先との関係と販売データがあり、新ブランドを同じ営業ルートに乗せられた。味の良さは必要条件にすぎず、棚に並ぶ権利を持っているかが最初の関門になる。
似た構図は、味違いを次々に出して棚を確保し続けるチロルチョコの展開にも見える。一つの当たり商品が、次の商品の通行手形になるのである。
1000万本は入り口で、勝負は二年目以降に決まる
発売直後の数字は、話題性と試し買いで押し上げられる。本当の勝負は、同じ人が二度三度と買うかどうかだ。ミルク味は定番になりやすい反面、他社の類似品やプライベートブランド(=小売店が自社名で出す商品)に追われやすい。86円が「高い」と感じられ始めたとき、味と食感の差で踏みとどまれるかが問われる。
原材料の高止まりが続くなら、40円台の定番と80円台の新顔という二層の価格帯を持つ会社が、今後は有利になるだろう。
ビジネスへの影響
小さな食品事業者にも使える価格の置き方
この事例から学べるのは、安さ以外の勝ち方を持つことだ。自社の定番が低価格なら、その上に一段高い別商品を置く。既存商品を値上げすると客は反発しやすい。しかし、名前と中身を変えた別商品なら、価格の違いが自然に受け入れられる。
価格は、客が迷わず買える心理的な壁の手前に置くのが基本である。菓子なら100円、焼き菓子の詰め合わせなら500円や1000円がその目安になる。通販なら、送料無料になる金額の少し下に単品価格を置くと、追加購入を促しやすい。
新商品を出す前に確かめたい三つの数字
一つ目は原価率である。原材料費や包材費が上がっても、利益が残る売値になっているかを先に確認する。二つ目は販路の確保だ。棚や売り場を押さえていない商品は、味が良くても人の目に触れない。三つ目はリピート率である。初回の販売数よりも、二度目に買う人の割合のほうが、商品の寿命をよく表す。
味の方向は、既存の看板とぶつからない軸を選びたい。同じ客を取り合うのではなく、別の場面で選ばれる商品に育てる。
ヒット後の欠品を防ぐ生産と在庫の備え
売れ始めてから増産を考えると、欠品で棚を失う。棚は一度外れると戻りにくい。原材料の確保、製造ラインの空き、外部への製造委託の可否を、発売前に洗い出しておく。需要が急に伸びた場合の増産の上限と、その際の原価の変化も試算しておきたい。小さな事業者ほど、売れすぎたときの対応が経営を左右する。
